その時引きずっていたもの。
1:仕事で疲れた体 2:鍵のかかった自転車 3:不注意に対する自己嫌悪
* * *
クリスマスイルミネーションが街を彩り始めた頃のある夜、わたしは、駐輪場に置き去りにしていた自転車を引きずって帰路についていた。 タイヤがロックされた部品とひっかかってガタガタと音をたてる。どう見ても自転車泥棒だ。
「どうしました?」
駐輪場から住宅街にさしかかったあたりで、わたしは男性に声をかけられた。遅い時間だったが車を手入れしようと外にでてきたようだ。わたしは口ごもり、 「えっと・・・、自転車の鍵を失くしてしまったんです」
「そうでしょうね」と、彼は自転車を覗き込み、 「その状態じゃあ厳しいでしょう。鍵、壊しましょうか?」
「ありがとうございます、でも合い鍵を作るかもしれませんし・・・」 「だけど家まで距離があるでしょう?」 「大丈夫です、10分もかかりませんから」 「自転車引きずりながらの10分はしんどいですよ。おーい、○○さん!」
その男性は扉をあけて女性を呼ぶと(その女性は奥様というには腰が低く、家政婦さんというには若い方のため、どういう関係の方なのかは皆目見当がつかなかった)、わたしの自転車の後ろを持ち上げて自宅まで送っていくよう言い付けた。
「いえ、そんな・・・本当にお気遣いなく」 「一人より二人のほうが楽なはずですから」 「でも・・・」
最初は辞退していたわたしだが、親切で申し出てくれている先方に対して、これ以上固辞するのも野暮だと思い、ありがたく送ってもらうことにした。
妙なことになったなぁ、と思う半面、見知らぬ人から親切を頂いたこと自体が嬉しかった。 後輪を持ち上げながら歩いてくれる女性との会話も、少々ぎこちなかったけれど、素朴で楽しかった。
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翌日、お世話になったその家に気持ちばかりのお礼を持っていくことにした。
「何かを贈る」ことは、実は自分が一番楽しかったりするのだ。 気を使わない程度で、あまりかしこまっていなくて、気軽に食べてもらえるような美味しいもの。ちょっと近所ではないようなものがいいな。 思いがけない親切に「ありがとう」の気持ちが伝わるようなもの。
わたしは会社のそばの和菓子店で、リンゴのプリン(リンゴを形どった入れ物にリンゴ風味のプリンが入っているのだ!)を買い求めた。
喜んでくれるだろうか。わたしはちょっとしたサプライズ計画にワクワクした。
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昨日自転車の件でお世話になった者ですが、とインターホンを押すと、間もなく昨日の二人が現れた。
わたしは昨日のお礼を改めて伝え、リンゴのプリンを渡すと、二人は驚き、遠慮していたが、はにかみながら受け取ってくれた・・・・・・が。 「あんなことくらいで申し訳ないから、これをどうぞ」 と赤い包みを差し出すではないか。 「えっ?」 「チョコレートらしいんですけどね、イタリアの留学生がお土産に持ってきたんですよ」
わたしは予想外の展開に面食らった。 「いえ、そんな珍しいお菓子ならますますいただくわけにはいきません」 これでは意味がないではないか!
そのまま数分、遠慮の押し問答だったが、やがて、またもわたしがご厚意に甘えることになってしまった。 わたしの手には、なにやらずっしりとした赤い包みが残った。
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帰宅後、家族に手短に今回の出来事を話しながら、包みを開けてみた。
「わぁ・・・!」
赤い包みの中から出てきたのは、真っ白な雪の街−−−
ホワイトチョコレートでできたイタリア・ペルージャの街並み。レンガ壁や凝った窓枠もきちんと細工されていて、中世の昔をジオラマ復元したかのよう。 それはあたかも、クリスマスのヨーロッパがひょっこり現れた、そんな感じだった。
わたしはうっとりそれに見入っていた。 翌日、食べるのが勿体ないので、クリスマスまではこのまま飾っておきます、そうお礼状にしたためた。
見知らぬ人々と、暖かな気持ちの交換。 思いがけないクリスマス・ハプニング。 なんだか、それがとても微笑ましく思った。
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今回もらったもの。
1:イタリアのステキなホワイトチョコレート 2:見知らぬ方からのご親切 3:ハートウォーミングなクリスマスの思い出
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