夜になって雪が止んだ。
もうみんな寝静まってしまって、ぼくはひとりで庭の杏の木の下に立っている。いつの間にか星が瞬きはじめて、葉の落ちた梢越しに空を見上げていると、細い枝が雪と星にキラキラと彩られて、まるでイルミネーションみたいだ。
この家の元気な男の子とその小さな妹は、久しぶりに降ってきた雪に大喜びして、二人で仲良くぼくを作った。この土地では雪は滅多に降らないし長く降り続くこともない。それに、雪の降った翌日は、たいていカラリと青く晴れ渡った空にお日さまが顔を出す。せっかくぼくを作ってくれたけれど、ぼくは明日のお昼頃にはもう君たちとお別れなんだよ。
寒い寒い朝がきた。
でもやっぱりいいお天気になりそうな、そんな澄んだ香りのする朝だ。
新聞を取りに出てきたママは、うなだれるように首を倒しかけているぼくを見て、ちょっと困った顔をした。やがて起き出してきた女の子がぼくを見つける頃には、お日さまもちょっと高くなっていて、ぼくはもうこんもりとした小さな雪の山になりかけていた。パパは会社に、お兄ちゃんは幼稚園に、ママはお洗濯に追われている。ひとりで庭に出てきた女の子はぼくを見つけると駆け寄ってきて、ぼくの前にしゃがみ込んだ。
「雪だるまさん、いなくなっちゃうの?」
小さな手を差し伸べて、悲しそうな顔をしてぼくを撫でている。
ああ、今日でもうお別れだよ。でもね、これからぼくは少し旅をして、空に昇って、また君のところに帰ってくるよ。もう今年は無理かもしれない。だけど来年の冬にはきっとまた会いに来るよ。その頃には君の小さな手もひとまわり大きくなって、きっともっと大きなぼくを作ってくれるだろう。
「さあ、片付いたわ。そろそろおやつにしましょう。」
リビングの窓が開いて、ママが顔を出した。
女の子は首に巻いていたピンク色のマフラーをはずすと、今はもうはっきりと形のわからなくなったぼくの首のあたりにくるりと巻き付けて、ママの呼ぶ方へ走っていった。
やれやれ、それはぼくにとっては逆効果ってものさ。でもありがとう。君は素敵に優しい女の子だ。
この冬が終わったら、春が来て夏が来て秋が来てまた冬がやってくる。季節ごとに出会うぼくのいろいろな仲間たちとも仲良く遊んで、そんなふうに優しくしてあげてくれるよね。
さようなら。君が楽しみに待っていてくれる限り、ぼくは必ずまたこの庭に舞い降りてこよう。
この企画には珍しく、素材が先に出来上がって、そこから生まれたストーリーでした(^^)
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