12月7日(木)

クリスマスのハジレコ

~ ゲスト寄稿:Shigaさま ~


音楽ファンの間では、最初に自分で買ったレコードのことを、よく「ハジレコ」などと称します。この「ハジレコ」というのは、「初めて買ったレコード」の略ですが、往々にして初めて買ったレコードというのは、あとから思い返すと結構気恥ずかしいものであったりもしますので、「恥じレコ」の意味合いも込められています。さて、自分のハジレコが何だったかというと、これがどうも思い出せません。記憶にないというよりも、買ってもらったレコードと、自分でお小遣いを持って買いに行ったレコードの境界線が曖昧なのです。

でも、初めて買ってもらったクリスマスレコードのことははっきり覚えています。'66年に出たシングル盤、「オバQクリスマス」。祖母と一緒に近くのレコード店に行き、買ってもらったものです。私が生まれ育ったのは北海道なので、祖母が履いていた下駄はいわゆる「雪下駄」というタイプ。前の方につま先掛けが付き、下駄の歯の底には金属製の滑り止め(突起)が打ち付けてあります。レコードを買ってもらったのが嬉しくて、私はレコード袋を勢いよく振り回すように歩いていたのですが、手袋をしていたせいもあるのでしょう、袋が指から離れ、雪道に落としてしまいました。それも運悪く、隣を歩いていた祖母の足元へ。そして滑り止めの付いた祖母の雪下駄の歯がレコード袋の上に。

すぐに拾い上げてみたものの、袋の上からでも分る盤面の変化。祖母に「聴けなくなったんじゃないの?」と心配されましたが、取り落としてしまったのは自分なので、もう1枚買ってとは言えず、「ううん、大丈夫」と答えてそのまま家に帰りました。部屋で取り出してみると、レコード溝部のほぼ中央に、見事なピンポイントで凹凸が1つ。ちなみにA面の「ジングル・ベル」が凸側で、B面の「赤鼻のトナカイ」が凹側です。B面は何とかトレースしたものの、A面は凸部近辺にくると針が飛んでしまい、最初の1分と最後の1分しか聴けない状態でした。この「ジングル・ベル」は寸劇入りなので、途中が聴けないと何だかよく分かりません。試しているうちに、だんだん悲しくなってきて、祖母には悪いけどそのレコードは聴かなくなってしまいました。しばらくはジャケットに付いていた漫画を見ながら絵を描いたりしていたのですが、盤と別々にしているうちに、ジャケットも盤もどこかにいってしまったのです。

こんな話を6~7年前に某中古レコード屋の店長にしたところ、「じゃあ、それがトラウマになって(クリスマスレコードを)集め始めたんですね」と言われ、虚を衝かれた思いでした。自分では'77年の12月に、あるラジオ番組のクリスマス特集を聴いたことが、クリスマスレコード収集のきっかけになったつもりでいたからです。しかし、そう言われると確かに気になっていたのかもしれません。事実、そのレコードは紛失して以来、ずっとめぐり合えないままでした。

それから数ヶ月後、その中古レコード屋に顔を出すと、店長が「例のオバQってこれですか?」と1枚のシングルを出しました。「ん?…こ、これだあーっ!」と思わず声をあげる私。「新宿の某店にあったんですけど、珍しく安かったので。よかったらプレゼントします」と店長。あの日から30数年を経て、祖母が買ってくれたクリスマスレコード(と同じもの)が手元に戻ってきたのです。今度は取り落としたりしないよう、しっかりとカバンの中に入れて持ち帰りました。あれほど聴きたかったA面、ようやく針飛びなしで通して聴くことのできた「ジングル・ベル」は、結局のところ、あまり面白い音源ではありませんでした。それでも聴くたびに、確かにあの日の祖母との帰り道が思い浮かんでくるのです。そして祖母の心配顔も。

(ゲスト寄稿:shigaさま)


クリスマスレコードのサイト「Merry Cgristmas,Baby」のオーナー、Shiga氏は、いわば私のクリスマス同期生。ともに1999年にnet上に産声をあげたお互いのサイトは、今年で8回目のクリスマスを迎えます。豊富なデータと的確な解説で実績を築いてこられたShiga氏は、別の分野の音楽シーンでもご活躍、持ち前の絶妙な語り口のファンもたくさんいらっしゃるようです。
今年は私の念願叶って、ギリギリのご執筆依頼だったにもかかわらず、お人柄そのままに実にサラッと誠実に原稿を書き上げてくださいました。同じ世代の私には、どこか懐かしいエッセンスを感じるエッセイに敬意を表して、本日のご提供画像にはサイトのお名前を入れさせていただきました。

Fumiko 


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