この家には、ネコが嫌いなおかあさんが住んでいる。
ボクはこの家からちょっと離れたところにある家の飼い猫のクロ。
ふらりとお散歩の途中に見つけたこの家の庭の、ふさふさしたリュウノヒゲや良い香りのするスイセンの繁みがすっかり気に入って、まるで別荘に通いつめるように遊びにくるようになった。
ある日、庭先の日溜まりでボクが毛繕いをしていると、洗濯物を干すために出てきたおかあさんと目が合った。
まずい! お母さんはボクが嫌いなんだ!
ボクは素早く逃げる体勢を整えたが、お母さんはいつものように「しっ、しっ!」と恐い顔でボクを追い払おうとはしなかった。
そのかわり、急いで部屋に戻って何か小さな銀色の箱を持ってきて、ボクに向かってそれを構えた。
知ってる!それはデジカメだ!
何回かシャッターを押したあとカメラをしまったおかあさんは、何もなかったような顔をして洗濯物を干しはじめた。
それからもボクはこの家の庭先でよくおかあさんと遭遇した。
おかあさんは時々またデジカメを取り出してボクの写真を撮ったり、大きなスケッチブックを持ってきてボクの姿を描きとめたりした。
ボクに笑いかけてくれたりはしなかったけれど、もうボクを追い払おうとはしなかった。
きっとおかあさんは今でもネコは嫌いだけど、花壇を踏み荒らしたり、辺り構わずフンをしてゆく野良ネコたちとは違って、ボクがちゃんとした紳士だということをわかってくれたのだろう。
それにしても、、
どうしておかあさんはボクの写真を撮ったり絵を描いたりしているのかな。
その答えは、この家のおねえちゃんが教えてくれた。
学校帰りにボクを見かけると、「にゃぁ?、にゃぁ!」とネコ語でボクに話しかけてくる面白いおねえちゃんだ。
デザイナーというお仕事をしているおかあさんは、僕をモデルにして、ネコの登場する絵を描いていたらしい。
なーんだ、それなら早く言ってくれれば、もっとちゃんとポーズをとってあげたのになぁ。
次の日、ボクはまた庭先でおかあさんとばったり出会った。
にゃぁ!
思いきってボクは話しかけてみた。
にゃぁ!
うわぁ、びっくり! おかあさんがネコ語で応えてくれた。
ヘタクソな片言のネコ語だったけど、「ご機嫌いかが?」って挨拶が、ぼくにはすごく嬉しかった。
よし! モデル料はそのネコ語の挨拶でまけておいてあげるよ。
おかあさんも、ごきげん、いかが・・・?
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